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AKT. 1 後編

≫AKT. 1 前編




 町の中に一件しかないキオスクは、ヨーロッパの多くの街にあるキオスクと同様に小さな新聞スタンドに近い様相をしている。簡単な雑貨やお菓子、それから学生たちが使いそうな道具が少しだけ揃えてある。4人は、手持ちのお金と、帽子の男からもらったお金で必要そうな物資を買い込むと、早速博物館に向かって足を進めた。

 博物館の裏にたどり着いた4人は、帽子の男に聞いていた通りの小さい石と、そのわきにあるウサギ穴を発見した。いざ、穴に入ろうとした瞬間、チョッキを着た白ウサギが猛スピードで駆けてきた。と言っても、ウサギのスピードはたかが知れており、更に二足歩行で走っているものだから実にゆっくりとしたスピードで、急いでいるようにはとても見えなかったのだが、彼の額から噴き出す汗と息遣いは、確かに急いでいる生き物のものだった。

 「ああ、たいへんだ!たいへんだ!!もう二時半だ!!遅刻してしまう」

どたどたと走るウサギは、穴の前で固まっている四人を見つけると、「どいてくれ!」と4人を押しのけてわれ先に穴に入ろうとした。しかし、このゆっくりとした動きで進むうさぎが先に穴に入ると、女王の前にたどり着くのに何時間かかるかわかったもんじゃない。

 「どうしよう……」とピーターが呟くと、グンナルが「僕たちの方が先に来てたんだから、先だよ!」といってウサギの腕を引っ張った。4人がかりでウサギを無理やり穴から遠ざけようとすると、ウサギはもともと赤い目をことさらに赤く染めて怒鳴りだした。

 「私の方が急いでいるんだ!!」

 大声を上げ威嚇体制に入ったウサギは、手に持っているステッキで4人に殴り掛かった。急に襲いかかってきたウサギに驚いた4人は、とにかく自分たちの持てる技能や技術の限りを使い応戦することにした。

 「こ、小石!!小石を投げる!!」

そういうとナイヌレはその辺にある草や土をこねて急ごしらえの小石のイミテーションを作り、ウサギに向かって投げつけようとした。が、急ごしらえの小石はウサギに当たるよりも早く空中分解してしまった。急に狂暴になったウサギの表情は、ナイヌレをビビらせるには十分以上の形相をしていたのだ。

そんなナイヌレを元気づけるように、ナツキはドレミの歌を歌った。20年間サバイバルで鍛えた度胸はたいしたもので、落ち着いて歌うナツキの歌はとても美しく、彼女が歌い終わる頃には4人はなんだかうきうきとした気持ちになっていた。「次は僕だね!」と調子づいたグンナルは、勢いよくウサギの脇に走り込むと、ひょぃっと彼の胸ポケットに入っていた懐中時計をかすめ取った。もちろん、ありもしない前髪をかきあげるようなキメポーズも忘れない。

「あっあっ!何をする!!」

フンボルトペンギンの予想外の素早い身のこなしに驚いたウサギはあたふたとポケットに手をかざしたが、そこには懐中時計の鎖すら残っていなかった。そこにピーターが即席の強風装置で思いっきり風を吹かしたので、ウサギは勢いに気おされて受け身も取れずにひっくりかえってしまった。

ナツキの歌で落ち着きを取り戻したナイヌレが、「今度こそ!」と再び小石を作ってウサギにぶつけると同時にグンナルが持っていたスケッチブックで思いっきりウサギに殴り掛かった。バン、バン、と何度も全力で叩きつけたおかげでスケッチブックは少し赤く染まってしまったが、4人は何とかウサギを気絶させることに成功した。

 倒れたウサギは白目をむいて、簡単には目をさましそうになかった。

 「コイツ、時計以外にもなんか持ってるんじゃない?」

 ナイヌレは、ウサギのチョッキの盛り上がりをじっと見ながらぼそっと呟いた。

 「そんな……倒れている人のものを取っちゃ駄目でしょ!」

 ナツキがあわててナイヌレを止めようとしたが、グンナルとピーターが既にウサギのチョッキを脱がせてポケットの中から財布を取り出していた。

 「あ、お金持ってるじゃん」

 そういうと、グンナルはさっさと中の硬貨を4人に分けて渡した。ピーターが「いただいていきます」といって空になった財布をウサギの服の上に置こうとしたが、ナイヌレが「何かの役に立つかもしれないから」と自分のポケットにしまい込んだ。なんだか、とんでもない人たちと行動を一緒にしてしまったかもしれない、とナツキはドキドキしながら硬貨を受け取り、自分の財布にしまい込んだ。

 

 さて、4人は意気揚々とウサギ穴に飛び込んだ。穴は、しばらく緩やかなトンネルのようにまっすぐ続いていたが、急にぽっかりと下に穴が開いて4人は足を踏み外してまっさかさまに落ちていった。周りが木の根でおおわれているためか、木の壁に囲まれた深い井戸を落ちていくような不思議な感覚だった。早く落ちているのか、それともそこまで早いスピードではないのか、そもそも落ちているのか浮かんでいるのかわからなくなって、4人はとにかくふわふわとした感覚に身を任せていた。辺りは真っ暗だったが、暗視のきくナイヌレが、うすぼんやりと辺りを見渡して、「本棚と食器棚がいっぱい。地図や絵があちこちに掛かってるね」というと、ナツキは壁に向かって腕を伸ばし、手探りで棚から瓶を一つ取り上げた。それをナイヌレに手渡すと、ナイヌレはふたを開けて中身を確認した。中には紙切れが1枚。何かの文字が欠いてある。

 「これ、何の暗号?」

 グンナルが、ナイヌレの読み上げた暗号について尋ねたが、4人には何のことやらさっぱりわからず、とりあえずナツキは取り上げた紙と瓶をポケットにしまった。それからは特に何かを見つけることもなく、再び浮遊する感覚に身を任せていた。ピーターが浮遊の気持ちよさでうとうとと眠たくなってきた辺りで、4人は急に枯草と小枝の上に落っこちた。枯草と小枝がクッションになってダメージは全くなかったものの、元気に立ち上がるには体が少しふらついていた。

 

 やっとこさ体を起こすと、そこは長くて天井の低い廊下だった。向かって左側に扉が3つ、右側には扉が一つあり、扉以外には特に何も見当たらない。遠い天井からはランプが一列にぶら下がっており、空を見上げたナツキはその眩しさに目を細めた。石造りの床はきれいに掃除がされているようで、塵1つ見当たらない。

 「ここ、何処だろう」

 きょろきょろと周りを見渡したピーターに、「危険はないっポイね」と鼻をすすりながらナイヌレが答えた。

 「えーっと、とりあえず、扉が4つあるからみんな一つずつ扉を開けてみない?」

 ナツキが提案すると、「じゃあ、僕こっちの右の扉」と、グンナルが早速扉に向かって足を進めた。残りの3人も適当に扉の前に立つと、「せーの」と声を合わせてドアノブに手をかけた。

 カチャン、と軽い音がして扉が開いたのは左側手前の2つの扉のみで、一番初めに右の扉に足を向けたグンナルは残念そうに「なーんだ、ハズレ」と呟いた。それから「ねぇ、みんな。このドア開かないんだけど、下に小さな扉があるんだよ。こっちは開けられるんだけど、どう頑張ってもぼくたちじゃあ通れそうにない。でも、扉の奥は綺麗な花畑だよ」と3人に聞こえるように大声を上げた。

 「私の開けようとしたドア、扉の横にキーパネルがあったの。なにかのパスワードを入れないとあかないのかもしれない。とりあえず、2つの扉があいたし、二人ずつペアになって部屋にはいろっか。」

 再びナツキが提案し、一番手前の部屋にナイヌレとナツキが、2番目の部屋にピーターとグンナルがそれぞれ入り部屋を探索することにした。

 

 ナイヌレとナツキが入った部屋は、どうやら寝室のようだった。六畳ほどの広さの部屋で、ベッド、散らかった机、衣装ダンスが置かれており、床にはカーペットが敷かれていた。ナイヌレは、机の上に散らかった紙類の中から文字が書かれた紙を1枚見つけ出した。

「ね、ね、これ、何かのヒントじゃないかなぁ?」

そういってナイヌレがナツキを振り返ると、彼女は見つけたチョコレートを自分のポケットにしまいこんでいるところだった。

 

 一方、ピーターとグンナルが入った部屋は、調度品から判断すると応接室のようだった。ドアから入ってすぐの場所に観葉植物の鉢が一つおかれ、部屋の中央には応接セットがある。壁際には本がたくさん詰まった本棚が置かれていた。

 「なにかあるかなぁ」

ピーターは本棚に入れられた本の背表紙を見ながらグンナルに尋ねた。「どうだろうね」と返したグンナルは、応接セットのソファの上に深く腰を落ち着かせていた。二人が「あ」と声を上げた瞬間はほぼ同時で、ピーターはブックリストを、グンナルは小さな紙片をつまみ上げていた。「どうする?」と聞くピーターにグンナルは、「とりあえず部屋を出て二人と合流しよう」と答えた。

 

ピーターとグンナルが扉を開けた時、丁度同じタイミングでナイヌレとナツキが部屋から出てきた。四人は顔を合わせて、それぞれの収穫を報告し合った。

「それで、これってなんだろう?」

集めた紙類を見比べながら頭をひねってみたが、うんともすんとも答えは出そうにない。ぐるぐると廊下を歩きまわっていたグンナルは、にわかに何かをひらめいて「エウレカ!」と叫んだ。その一言に影響されたのか、ナツキははっとして一枚の紙片を取り上げると、先ほど自分が開けようとして叶わなかった扉へ向かって歩き出した。ナツキがタッチパネルのいくつかのキーに触れると、ピーという電子音がして扉の鍵が開いた。

 「やった、すごい!!」称賛の声が上がり、ナツキは揚々として扉に手をかけた。部屋の中は小さなキッチンで、二口コンロと冷蔵庫、ダイニングテーブルが一つ。ダイニングテーブルの上に置いてあるカードをナツキがつまみ上げた時、鼻ざといナイヌレは冷蔵庫の中からイチゴのタルトを見つけ出した。「美味しそうな匂いがしたんだ」と嬉しそうに言うナイヌレを「後でお茶と食べようよ」とピーターが制し、イチゴのタルトはお預けとなってしまった。

 

 カードにはなぞなぞのような文章が書かれており、先ほどの紙片と相まって四人は余計に混乱していた。「つまり、それで、結局、」とグンナルは唸るようなつぶやき声を発していたし、黙って静かに考え込むナツキはどうみても動かないこけし人形そのものだった。早々に考えることをあきらめたナイヌレはピーターの裾を引っ張って彼女が必死に意識を紙片に向けようとするのを邪魔しまくっていた。

 「わからない?」

 何もないところから不意に声が聞こえてきたので、四人は驚いて「な、なんじゃぁ?!」と変な声が出た。ランプの上ににやにやと笑う歯が浮かんだかと思うと、その歯の持ち猫が姿を現した。

 「何に悩んでいるかわからない?そもそも悩んでいるのか?いないのか?」

 にやにやと笑いながらおかしなことを言う猫にはナイヌレ「僕ばかだから、この紙に書いてあるのがよくわからないんだ」と返した。「見せてみなよ」と猫は紙片を一瞥すると、もごもごとネコ語でヒントを言ってそのまますぅっと消えてしまった。「何を言ってたの?」とナツキが尋ねると、ナイヌレは猫が行ったことをみんなにわかるように言って話した。

 「あ、それじゃあもしかして」とピーターがブックリストを眺めて、その中の一冊を本棚から取り出すと本のなかはくりぬかれていて中に「私を飲んで」と書かれたビンが入っていた。

 「これ、毒じゃないよね?」と不安そうに言うグンナルに「大丈夫だよ、多分」と軽い調子でピーターが答えた。みんなで1/4ずつ瓶の中身を飲み干すと、見る見るうちに四人の姿が縮み始めた。「あ、この大きさだったら、さっき僕が開けようとした扉の下のドアが通りぬけられるかも。」グンナルがそういうと、ドアに向かって走り出した。「うん、やっぱり。みんなもおいでよ。綺麗な花畑だ」その声に残る三人はグンナルの後を追ってドアを潜り抜けた。確かに、ドアの向こうはとても美しい花畑で、遠くには女王の城らしいものも見える。

 「やった、目的地までもうすぐだ!!」

 四人は花畑を歩き始めた。10分ほど歩いたころだろうか。ナイヌレが「嫌な予感がする」と呟き、尻尾をピンと立てて落ち着きなくきょろきょろと周りを見渡し始めた。すると生垣の中から、大きな白い犬が跳びだしてきた。「きゃー!!」とピーターが叫ぶと、犬は嬉しそうにピーターの後を追いかけ始めた。「ど、ど、どうする?!」グンナルは驚いて引け腰になっている。「い、犬って逃げていくものを追いかけるんじゃなかったっけ?」ナツキが言うと、ナイヌレは先ほどウサギからひったくった空の財布を遠くに向かって投げた。財布に気を取られた犬が走っていったので、四人は急いで目的方向に向かって走り出した。ひとしきり走って息が切れたころ、四人は真っ白いかわいらしい二階建ての家を見つけた。家の玄関にはピカピカの真鍮の板がかかっていて、白ウサギと名前が彫ってある。「白ウサギって、さっきグンナルがタコ殴りにしたから今いないんじゃない?ちょっと休憩しようよ」そういうと、ナイヌレはさっさと扉に手をかけた。ドアには鍵がかかっていなかったので、四人は簡単に家の中に入ることができた。中は綺麗に掃除がされていた。「ウサギの家、結構きれいじゃん」とグンナルは興味深そうに二階に歩を進めた。二階は四畳半ほどの小さな部屋だった。窓際のテーブルの上に置かれたキャンディをグンナルの後について二階に上がっていたピーターが手に取ろうとした時、窓の外を掃除していたトカゲの掃除男と目があった。トカゲはビックリ驚いて「おっおっ、おまいら、オラのご主人様の家に何勝手に入ってるっぺ!!」と大声を上げた。彼は大急ぎで家に梯子をかけ、屋根の上に上ると煙突から二階に下りてきた。怒ったトカゲはグンナルに襲い掛かろうとしたが、彼の主人の血で赤く染まったスケッチブックの連打がさく裂し、トカゲは入ってきた暖炉から外に吹き飛ばされていった。「大丈夫…?」とナツキが心配そうに尋ねると、グンナルはにっこり笑って「大丈夫さ」とありもしない前髪をかきあげた。

 

 ウサギの家を出た四人は女王の城まで急ぎ足で歩いていた。ピーターのポケットの中でコチコチと鳴る懐中時計の音がみんなの足を急がせていたのだ。道中、トランプの兵隊が幾度となく四人を襲ってきたが、その度にグンナルのスケッチブックがさく裂し、襲いかかられることに慣れてきたナイヌレは次第に上手く小石を投げられるようになってきた。ピーターに至っては、余裕の踊りを見せて周りを驚かすほどであった。ナツキは安定した音程で歌を歌い続け、味方の精神を保ち続けていた。

 

 約一時間ほどかかっただろうか。四人はついに女王の城にたどり着いた。不用心にも門番はおらず、四人が扉を開けると、ちょうど女王がクロッケーコートに向かって中庭を横断しているところだった。

 

 四人はわき目もふらずに女王に向かって走りよっていった。ナツキが綺麗なお辞儀をして女王に挨拶をし、時間を戻してほしいと伝えた。

 「時間を戻す?繰り返している方が楽しいさね。フン、タダでは戻してやることはできないねぇ。」

 女王は四人をちらちらと見ると、面白いことを思いついたといった表情で言葉をつづけた。

 「ここに、ハートのジャックという者がおってな。こやつはこともあろうか私が作ったイチゴのタルトを盗み出しおった。その罪でクロッケーの後に裁判にかけようと思っていたのだが、丁度いい。お前たちこのジャックと闘って、勝つことが出来たら時間を巻き戻すことができるゼンマイをくれてやろう」

 にやりと笑いながら女王はジャックを向き直り、「あの者たちを倒すことができればお前の罪は問わないよ」と言った。女王の言葉を聞いて、はっとしたピーターが大声を上げた。

 「女王様!ジャックはタルトを盗っていません!!ジャックにとられる前に、私たちがタルトを保護したんです!」

 ピーターは、鞄の中からイチゴのタルトを取り出した。

 「フン、そんなこと言って、あとでお前達が食べようと思っていたのだろう。そもそも、私の冷蔵庫から勝手にタルトを持ち出すなんて、お前たちどういうつもりだ!!ジャック!こいつらをやっつけておしまい!!」「Yes, Your Majesty!」

 自分の罪が晴れた喜びからか、ジャックは嬉しそうに返事をすると四人に向かって剣を振り上げた。ジャックの振り上げた剣先を寸でのところでひらりと避けたピーターは、ジャックから距離を置いて後方へと下がった。ナツキは慌てて手荷物から楽譜を取り出し何曲か歌を歌おうと試みたが緊張のためかなかなかうまく歌うことが出来なかった。愉快そうに剣を振り上げるジャックのすきをついたナイヌレが泥やごみクズをまとめて簡単な小石を作りジャックに向かって投げようと試みたが、てんで遠くの方向に飛んで行ってしまった。一同を落ち着かせるように颯爽と飛び出したグンナルが、既に何度も間違えた使用をしたことで今や血が滴るスケッチブックを振り上げてジャックに殴り掛かって行った。バコンバコンと決して軽くない音を立ててスケッチブックはジャックに幾度となく振り下ろされた。体制を崩し、怒ったジャックが再び剣を振り上げたがピーターはその切っ先を飛び越えて避けた。その時、ナイヌレが、今度こそはと捏ね上げた特製の小石玉がジャックの脳天にぶち当たる。目を回したジャックはそのままその場に倒れ込んでしまった。

 

 「なんじゃ、もう終わりか」ジャックの倒れる様子を見て女王は心底つまらなそうにつぶやくと、ナツキ達に向かって「うむ、まぁ楽しいひと時であった。これ、そこのおかっぱの娘。このネジをおまえにやろう。」というと、真鍮で出来た小さなネジを手渡した。「このネジを、どれでも構わん、手持ちの時計に指して巻けば時は動き出すだろう。ここに留まって私とクロッケーをしても構わぬが、元の場所に戻りたいと思うのならばそこの茂みにウサギの掘った穴がある。そこから戻ることができるだろう」言い終えるやいなや、女王はさっさとクロッケー場に向かって歩き出した。ネズミが数匹、ジャックの身体をどこかに運んでしまうと中庭はしんと静まり返った。

 ナツキからネジを受け取ったピーターが懐中時計にネジを巻くと、キリキリと小さな音を立てて時計は動き出した。「おわった…のか?」そうグンナルが呟くと、疲れた顔をしたナツキが「とりあえず帰ろう」と呟いた。ナイヌレを先頭にウサギの穴に向かうと、四人はたちまち穴のなかへまっさかさま。気が付けば、博物館の裏手に座り込んでいた。

 

 「ね、あの帽子のおじさん、とりあえず終わったらもう一度レストランえびねに来てくれって言わなかったっけ?」というナイヌレの一言で、四人はそろってレストランえびねへと足を向けた。

 

 レストランえびねではディナータイムが始まっており、中は多くの人でにぎわっていた。その中でも特ににぎやかだったのが帽子をかぶった男とウサギの二人組で、飲んでは歌い、歌っては踊るのどんちゃん騒ぎを繰り返していた。「や、英雄たちのお出ました!」とウサギが叫ぶと帽子をかぶった男は「お帰りだ、お帰りだ」とビールを浴び始めた。

 「素晴らしい!実にすばらしい!!」ビールまみれの手でピーターに握手をした帽子屋は、全員に2000カネーをふるまい、ウサギは古い本のページをナツキに手渡した。「これはね、かつて終わったはずの『物語』の最後に記されたページなんだ。この意味、君たちにはわかるかい?」英語で記された言葉の意味を、四人ははかりかねていた。「いずれにせよ、今日はお祝いだ。難しいことを考えずにジャンジャンやってくれ!!」ダース単位で注文されるビールを見ながら、四人は明日以降の学園生活に思いをはせていた。

 

金冠町にいつも通り、今日も夜が訪れた。

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